非認知能力の差が子どもの将来を分ける

非認知能力について

IQや学力といったテストなどで、評価、数値化できる能力を認知能力と言います。反して物事に対する考え方、取り組む姿勢や行動、意識や心の在り方など、日常生活・社会活動において重要な影響を及ぼす能力を非認知能力と言います。

ノーベル経済学賞受賞者のジェームズ・ヘックマン教授の研究チームは、幼児期の教育が及ぼす影響について、社会的リターンをもたらしている要素は、認知能力ではなく非認知能力であるとし、幼児期に非認知能力を育成することの重要さを経済学の立場から示しました。

ジェームズ・ヘックマン教授は日経ビジネスのインタビューの中で、「5歳までの教育が人の一生を左右する。格差是正のためには、幼少期の子どもとその親に対して働きかけをすることが大切」と述べています。

 ノーベル賞ヘックマン氏「『生き抜く力』は5歳までに決まる」


https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00351/072400090/ 

非認知能力の教育は家庭から

「三つ子の魂百まで」という昔からの諺が、このように研究によって裏付けされ、昨今では非認知能力を高める教育への関心が高まっています。しかし認知能力を学習させる役割の学校教育では、非認知能力の教育に手を施すことはできません。なぜなら、非認知能力とは、就学前の年齢の子どもたちが家庭での教育によって育まれるものだからです。そして家庭での非認知能力の教育は、子どもの学力や進学率のみならず、就職率や年収、マイホーム購入率にも影響を与えます。

ヘックマン教授が「格差是正のためには、幼少期の子どもとその親に対して働きかけをすることが大切」と述べるように、就学前の家庭での教育は、一人の子どもの人生だけでなく、教育格差、所得格差、情報格差に深く刻み込まれるよう、社会にも影響を与える潜在的な力を持っています。

非認知能力の教育においても格差は生じる

6年連続で「世界幸福度ランキング」の1位にランクインしているフィンランドは、人権と平等、そしてウェルビーイングを国の指針とし、特に社会での待遇や教育における格差をなくす政策を取っています。教育関係者であれば、フィンランド教育についてはご存じの方が多いと思いますが、フィンランドには私立の学校はないため、アメリカのように私立と公立の格差や、貧困地域、富裕層地域の教育レベルに格差がなく、フィンランドはみな同じ教育レベルと教育関係者たちの一貫した哲学があるようです。それは生まれによる格差を減らし、全ての人に平等な出発点を与えようとするためです。

日本ではアメリカほどの格差はないにしても、日本の大学等進学率は73.0%で、ひとり親家庭の子どもは58.5%、更に生活保護世帯では35.3%というデータがあります。教育格差とは、親の学歴や収入の差という生まれ育った環境によって、生まれた瞬間から受ける教育や人生が限定されてしまうことを言います。家庭での非認知能力の教育にも当然格差がでることは、統計などなくても認識されている現実だと考えます。もしくはそう認識したくない現実とも言えるかもしれません。

前述しましたように非認知能力の教育は、主には就学前の家庭での教育が軸になるため、学校に任せられる性質のものではなく、家庭での教育が鍵となります。但し、非認知能力の教育は親の収入によって格差が生じるのではなく、格差の理由は、親自身がどのように育ってきたか、そして親が心身ともに余裕があり、安心して子育てできる状態であるかが重要なファクターだと考えます。つまり「親の心身の在り方」という子どもが育つ環境が、子どもが将来大人になった時まで続く、一人の人間のウェルビーイングに影響をもたらします。

©️ランディー由紀子