このシステムを開発した人たちは、こうした人間の生理学的な特性に働きかけるよう、コンピューターのコードを使って、人が依存するシステムを構築しました。ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズは自分の子どもたちに、テクノロジーの使用を厳しく制限したという話は有名ですが、因みに彼らの娘たちは共に、乗馬で活躍した選手になりました。

しかし多くの人たちは今、皆で渡れば怖くないというように、周りが皆使っているから大丈夫だと思わされているスマホが、実は子どもの脳の発達を妨げたり、鬱の原因になったり、学習障害を引き起こしたりなど、大人たちだけでなく、子どもたちをも蝕んでいる現実を認識できているでしょうか? また認識していたとしても、スマホに取られる時間が多過ぎたり、スマホを使う時間を少なくしようとしても、ついスマホを見てしまったり、大人でさえスマホ利用を制限するのは難しいと感じている人たちは多くいると聞きます。

カフェで座っているカップルがお互いにスマホを見ていたり、電車の中やどこでも、スマホを手にしている人ばかりなのを私たちは日常的に目にしています。少しずつ時間をかけて変化してきた人類は、スマホに関してはここ10年くらいで、生活様式からコミュニケーションに至るまで、急激に変化させられました。ですから認識した上で、どのように利用するかという方法が、未だ模索さえされていません。

但し多くの人は無意識で、(なんだかまずいことになっている)とは感じていることでしょう。それと同時に(自分は大丈夫)と思っているかもしれません。 個人では太刀打ちするのが難しい、ネガティブな意味での強い効果がスマホにはあります。しかしあまりにも急激な普及率によって、認識された上でなんらかの手が社会で打たれるのが、追いついていない状況が現状ではないかと思われます。

男性は83%以上、女性は18%の禁煙率がピークだった 1960年代から、「がん対策推進基本計画」で「2022年度までに成人喫煙率を12%とすること」が掲げられ、またタバコの健康への影響が認識されるようになり、喫煙に対する社会でのあり方が変化し、2019年には男性27.1%、女性7.6%、男女計16.7%に減少しました。

スマホの場合も、いずれはこのような動きが出てくるかもしれません。しかし今、現在進行形で育っている子どもたちはどうなるのでしょう?今は0歳でスマホを使う事ができない赤ちゃんにも、スマホの被害は及んでいます。

子どもの発達にはお母さんの働きかけがとても大切です。それは脳の発達のみならず、後々の心身の健康状態、そして人が幸せになるために、知能指数よりも重要だと言われている、非認知能力にも大きく関わってきます。

しかし、お母さんが乳幼児の目を見る代わりに、いつもスマホに目がいっていたらどうでしょうか? そしてもしお母さんが、それをやめなくてはいけないと無意識に感じている、もしくは強く感じていたとしても、スマホ依存に陥ってしまっていたら、自力でコントロールするのは容易ではないはずです。

温かいコミュニティーのない都会の生活は、大都会だけでなく地方都市や、小規模な街レベルまで浸食してきています。依存症とは孤独の病と言われていますが、スマホの普及はこうした土壌に食い込み、人々がスマホ依存の泥沼に陥ってしまうのは、個人の問題ではなく社会問題と言っても言い過ぎではありません。

誰も止めてくれないし、社会で容認されていて、しかも周りもみなスマホをいつも使っている環境であれば、健康的なレベルまで使用を制限するのは難しいでしょう。 反面、お母さんたちには子どもへの影響を深く認識し、強く意志を固めた時には、とても強い力が出るのではないかと思います。「ゆりかごを揺らす手が世界を握る」と言うように、我が子を愛する母親たちが目覚めれば、社会に変化を起こせる潜在的な力になり得るのではないでしょうか。

©️ランディー由紀子